さわやかに終幕
2017年3月30日 19時11分
「JX-ENEOS 第30回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会2017(以下、ジュニアオールスター2017)」は、男子が神奈川県の4年ぶり5回目、女子が大阪府の初優勝で幕を下ろした。
男子の神奈川県を率いる松澤 俊介コーチは、男子U-16日本代表候補でもある#14田中 力選手を軸にしてチームを作ってきた。しかし、松澤コーチは、「田中は当初、少しセルフィッシュなところがあって、チームが始まったころは『自分が、自分が…』という気持ちが強かった」と言う。そのため、大会前に行なった練習試合では内容が伴わず、不安要素を抱えたまま、チーム作りを進めざるを得なかった。
チームで戦うことの大切さに気付いた神奈川#14田中力選手(右)。チームメイトもそれに応えた。
しかし、大会に向かう過程で#14田中選手が、それではダメだと気づく。
「ジュニアオールスターって自分の力を出すところだと思っていました。自分の力を出して、周りにアピールするところだと。でもバスケットボールは5人でやるスポーツだし、優勝するためにはチームとして頑張らなければ無理かなと思って、考え方を変えたんです」
そこからチームの歯車が好転し始める。#14田中選手が周りのチームメイトを信じ、周りの選手たちも期待に応えるかのごとく、持ち味を出してきた。
「(チームとしての)柱はあるけど、チームらしくなってきたかな。伸びしろが形になったという意味では達成感があります」と、松澤コーチも感無量といった感じだ。
その#14田中選手は、今年1月、男子U-16日本代表候補としてチェコ遠征に参加している。そこで行われた大会では優秀選手に選ばれるなど、当然、今大会でも注目される存在になっていた。注目されればされるほど、プレッシャーとも戦わなければいけない。
#14田中選手自身も、今大会を迎えるにあたりプレッシャーがあったと認めている。そのうえでこう続ける。
「それが普通だと思わなければいけないって思っていました。お母さんからも『あなたのことを成功させたくないという人はどこにもでもいるものよ』と言われているんです。実際、横須賀でもいろんなことを言われます。『お前はアメリカに行けば、大したことはない。いや、日本だって大したことはないんだ』とか……でも僕はそう言ってもらえて嬉しいと思うようにしています。今は大したことがなくても、もっとうまくなったら、そういう人たちからも褒めてもらえると思うから」
これがジュニアオールスター2017で最優秀選手を受賞した選手のメンタリティーである。
決勝戦こそミドルシュートは少なかったが、ドライブなどで34得点をあげた
チェコ遠征では同世代の、自分よりもはるかに大きな選手たちと対戦し、ミドルシュートの大切さを痛感したという。
「決勝戦ではうまく力を出せませんでしたが、昨日までの得点の多くはミドルシュートでした」と、練習の成果を出し切った。
ただ、反省点もある。決勝戦の終盤、2点差にまで詰められたのは、直前に#14田中選手が犯したミスからの失点であった。
だからこそ、これからもっと彼は成長していくはずだ。将来の目標はNBA入りだと言うが、「その前に(各年代の)日本代表に入って、海外の選手と多く対戦して、多くのことを知って、大人になったときには(NBAで戦うための)準備が万端に整っているようになりたい」と、しっかりとしたビジョンを持っている。そうした目標に向かって努力を続ければ、夢はおのずと近づいてくるはずだ。
ジュニアオールスター2017を彩った#14田中選手は、今後、どのような成長を遂げていくのか。また、#14田中選手を支えた神奈川県のメンバーや、他47チームの選手たちはどんな成長の軌跡を描いて、日本のバスケットボール界を盛り上げてくれるのか。
それは、同じく最優秀選手を受賞した大阪府#4前田 芽衣選手をはじめとした女子の選手たちにも言えることである。
爽やかな選手たちが活躍したジュニアオールスター2017は、後味も爽やかな大会であった。
4年ぶり5度目の日本一に輝いた男子・神奈川県
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“相棒”とともに悲願の頂点へ
2017年3月30日 12時08分
「JX-ENEOS 第30回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会2017(以下、ジュニアオールスター2017)」は最終日を迎え、記念すべき30回目のチャンピオンチームが決まる。
決勝戦に先立って行われた女子の準決勝では、大阪府と長崎県が決勝戦進出を決めた。
前回大会でも決勝に進出した長崎県を引っ張るのは#5江村 優有選手だ。
切れ味鋭い1対1は相手を翻弄し、チームの得点の大半をたたき出す。昨日の準々決勝・兵庫戦では、チームの59点中41得点が#5江村選手のものだし、準決勝の愛知戦も58点のうち36得点を彼女が決めた。
「1対1はすべて決めてやる」という気持ちでプレイしているそうだが、あくまでも強い気持ちを出すのはディフェンスやルーズボールで、オフェンスは「普段やっていることを、そのまま出すことだけを考えています」と言う。
それでも前回大会と比べると、間違いなく切れ味は増しており、3Pシュートの精度も上がってきている。「(相手の)抜き方のバリエーションを増やして、方向転換の瞬間に脱力することを心がけている」彼女の1対1を可能にしているのは、ボールハンドリングを中心とした“ファンダメンタル”がしっかりできているからだろう。
抜群の攻撃力で長崎県を引っ張る#5江村 優有選手
それでも32分間、常に1対1で突破し続けようという精神力の強さは並大抵のものではない。#5江村選手の1対1を中心に攻めようと考えたのがコーチではなく、「なんとなく、そんな感じになった」と言う。それだけチームメイトからの信頼も厚いというわけだ。
むろん彼女中心のオフェンスは、一方で相手チームのかっこうの標的となる。毎試合、チーム随一のディフェンダーをつけられ、ダブルチーム、トリプルチームも当然のように仕掛けられる。準決勝の愛知戦でも、終盤にトリプルチームを仕掛けらる場面があり、そこでいくつかのターンオーバーを犯していた。
「ディフェンスが前から当たってきたときに、ひっかけてしまって相手ボールにしてしまいました。方向転換をもっとうまくしなければいけませんでした」
勝ってもなお、すぐに反省点を見つけるあたり、やはりチームの中心選手に相応しいメンタリティーを持っている。
そうは言っても、やはりチームは決して#5江村選手1人で勝ち上がってきたわけではない。#5江村選手が1対1をしやすいようにスペースを空ける動きをするほかの選手たちも、やはり長崎県には欠かせない。スペースを空けるだけでなく、156cmの#5江村選手からすれば、リバウンドで競ってくれて、ディフェンスで相手にハードなプレッシャーをかけて、自分たちのボールにするためには、やはりチームメイトの存在が重要になのである。
ディフェンスで相手チームを苦しめる長崎県#8松尾 優希選手
中でも#5江村選手の“相棒”ともいえるのが、#8松尾 優希選手だ。#5江村選手と同じ中学校に通う150cmのガードは、やはり前回大会でも1年生ながら存在感を示している。
昨年は2人で揃って暴れまわっていた印象があるが、今大会では#8松尾選手が一歩下がったところで#5江村選手を支えているようにも見える。
それだけに、#5江村選手も#8松尾選手のことを「ディフェンスで相手のポイントガードを止めてくれて、相手に行きかけた流れを止めてくれる。オフェンスでも自分が詰まったときに、バックカットなどをして合わせてくれて、しかもそれを決めてくれる」と信頼を置いている。
#8松尾選手も「(江村)優有がドライブをしようとしてディフェンスに囲まれたら、合わせて決めるのが自分の役割」だと言い、そのうえ、こう付け加える。
「優有がオフェンスで頑張って、点を取ってくれるので、私はディフェンスで役に立てるように頑張っています」」
これもまた、バスケットボール、チームスポーツの一つの形だろう。
オフェンスだけを見れば#5江村選手が突出しているようにも見える。しかしそれをディフェンスで支える“相棒”がいるからこそ、長崎県は絶妙なバランスを保って、2年連続の決勝進出を決めたのだ。
2人が今、思い描いているのは前回大会で経験できなかった優勝だけだ。
注目の女子ファイナルは、まもなくティップオフを迎える。
長崎県は昨年成し遂げられなかったジュニアオールスター制覇を、チーム一丸で目指す
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「晴れのち雨」を経験したコーチの“今”
2017年3月29日 22時26分
「JX-ENEOS 第30回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会2017(以下、ジュニアオールスター2017)」は大会2日目が終了し、男女のベスト4が出揃った。
男子で、2年連続の準決勝進出を決めたのは新潟県。
しかし、その準々決勝は薄氷を踏む勝利だった。初の準決勝進出を狙う兵庫県に対し、ビハインドを負ったまま最終ピリオドの残り時間2分を切っていたのだ。
そこから逆転ができたのは、鍛えてきたディフェンスと、190cm前後のビッグマンを2人も擁する兵庫県に分があると思われていたリバウンドで踏ん張ることができたからだ。
新潟県の堀 里也コーチは、「最後の2分は子どもたちの力です。私は何もしていません」と言うが、同時に「今年のチームはアウトサイドからのシュートを見せ玉にして、実はセカンドチャンスで得点を取るチームを作ってきました」という、チーム作りの勝利とも言える。
タフなゲームを選手とともに戦った新潟県の堀 里也コーチ
新潟県は、前回大会で初優勝を果たしている。周囲の期待は”今年も”となるのだが、前回大会と同じコーチングスタッフが最初に集まったとき、一度だけその時の話をしたが、それ以降は「比較になる。今年のチームは今年のチーム」として、新たなチーム作りを始めた。
そこには自身が経験した“失敗例”があると、堀コーチは認める。
堀コーチは、今なお1校しか達成していない、秋田県立能代工業高校が「高校9冠」を成し遂げた翌年の主力メンバーだった。つまりは、日本人初のNBAプレイヤーの田臥 勇太選手(現:栃木ブレックス)の一年後輩。
「高校9冠を達成した翌年、私たちは無冠に終わりました。だからこのチームでも『今年も』ではなく、『今年は』の気持ちでやっています。子どもたちからしても、目の前にいい失敗例があるのだから、わかりやすいですよね」
堀コーチはそう言って笑うが、あのときの悔しさは生涯忘れることがないだろう。だからこそ、今を大切にするチーム作りを心がけている。
「自分たちが日本一になる」と強い意志を示した新潟県#4小川 敦也選手(右)
むろん、前回大会を経験したことで、参考にできることは参考にする。
たとえば、決勝トーナメントの1回戦が大会2日目の4試合目で、勝てば6試合目が2回戦となる。中1試合で、すぐにゲームをしなければいけないのだ。このタフなスケジュールを前回大会で経験している。
「タフなゲームで、難しくなるのはわかっていました。だから1回戦の福岡戦が終わったときに、選手たちには福岡戦の話は一切させず、次の兵庫戦に向けて何をすべきかを考えさせました(堀コーチ)」
実際には、選手たちは大一番と思っていた福岡戦にフォーカスしすぎて、準々決勝の兵庫戦にうまく入っていけなかったところもあった。競り合いの展開は、もちろん兵庫県の実力でもあるが、一方で、どこか新潟県もそれまでの“らしさ”が出せていなかったようにも見えた。
それでも堀コーチは、「兵庫県の試合も決して悪くはなかった」と言う――「勝ったからプランどおりということで……」と苦笑いを浮かべながら。
本音を言えば、負けが頭をよぎった瞬間もあっただろう。それでも、そのたびに今年の選手たちを信じ、「いや、まだいける」とベンチの前で自分を奮い立たせていたはずだ。
選手時代の失敗は、何も選手時代にだけ返せるものではない。むしろ、もっと大人になったときにこそ、「あの経験があったから、今はこう考えられるんです」と胸を張って言えるようになるものだ。
「今年の新潟県は小さいでしょう……まるで日本(代表)を象徴するかのようなチームです。そんなチームでもタフなゲームを勝つことができたのだから、このチームでまたセンターコートに立ちたいですね」
高校9冠を目の当たりにし、その後、無冠を経験したコーチはタフなゲームの翌日、どんな采配を見せてくれるのか。
明日、新潟県は準決勝を長崎県と対戦する。同じく過去に一度、ジュニアオールスターを制したことのあるチーム。それぞれの「今年は」が白熱したゲームを生むはずだ。
試合後、選手たちに次戦に向けた心構えを伝える堀コーチ(右)と、それを真剣に聞く新潟県の選手たち
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